社会の「見えない要」として産業を支える触媒技術。例えば、水素を天然ガスから生成したり、その際に発生するCO2を回収したり、水を電気分解して生成したりと、未来のエネルギー革命の鍵を握る技術であり、社会のカーボンニュートラル化に向けて今後一層の技術革新が求められている分野である。伊藤忠セラテック株式会社は、「せとものの町」として有名な愛知県瀬戸市に本社を構えて65年となる老舗セラミックスメーカーである。同社の強みは、触媒の土台である触媒担体(セラミック)から触媒までをカスタムメイドで一貫して製造する体制と、独自特許技術の触媒担体構造にある。これはセラミックスメーカーである同社だからこそ実現できるユニークな強みであり、これにより反応効率の最大化が期待できる。従来触媒メーカーと一線を画した差別化した取り組みにより、この分野で新たな一歩を踏み出している。
触媒技術が描く未来
触媒とは、化学反応の速度を速めるほか、より小さなエネルギーで反応を引き起こし、反応前後ではそれ自体が変化しない物質である。この特性によって、エネルギー効率の向上やプロセスの最適化が可能となる。そして、カーボンニュートラル社会の実現に欠かせないのが「メタネーション」である。CO2とH2を反応させて合成メタンを生成する化学反応のことである。
伊藤忠セラテックは、このプロセスを効率化する「メタネーション触媒」を開発。得意とするセラミックス技術による多孔質構造を活用し、触媒の耐久性と効率を大幅に向上させている。この注目されている触媒が「エアロナイト」である。
独自のバイモーダル構造
「エアロナイト」の特徴は、その構造にある。内部のコアと呼ばれる部分が特性の異なるセラミックスで覆われている。その外側のセラミックスにある無数の穴(マクロ孔)は、互いにトンネルのように繋がっている。穴の中には、触媒反応を促進する金属粉を独自技術によって担持させている。これをバイモーダル構造と呼ぶ。反応させるガスをこの穴に通過させることで目標とする生成物へ転化させる。同社は要望に応じて、素材や形状、穴の数や大きさ、更には特性の異なるセラミックスを複合する等、触媒担体の構造からカスタマイズする事が可能である。
メタネーション触媒
従来、メタネーションでは、触媒には高価な貴金属が使われることが多く、それに伴い合成メタンの製造コストが高くなる事が業界の課題とされていた。同社はその強みを活かすことで、安価なニッケルをベースとするにも関わらず、高い性能とコスト優位性を両立する触媒の開発に成功し、今業界の注目を浴びている。メタネーション装置の開発や工場での活用を検討している企業が続々と興味を示しているという。
また、同社は愛知県が推進する「知の拠点あいち重点研究プロジェクトIV期」に参画。開発に成功した触媒を用いたメタネーションの実証試験を開始している。(文:落合平八郎広報事務所)
未来を見据えた新戦略
今回の展示会をきっかけに、伊藤忠セラテックは触媒技術をさらに広く発信し、セラミックスの新たな価値を提供する方針である。これまで一部の企業に限定し提供していた技術を、より多くの企業や分野に展開し、社会全体の持続可能な発展に貢献していく。担当者は「触媒技術は産業を支える縁の下の力持ちだ。これからも新しい技術開発で社会に貢献していきたい」と話す。(文:落合平八郎広報事務所)
会社名:伊藤忠セラテック株式会社
代表者:代表取締役社長 矢島久嗣
設立年:1960年12月
業務内容:伊藤忠グループにおけるセラミックス分野の中核会社。耐火物原料事業、セラミックスサンド事業に加え、カーボンニュートラル用触媒事業を推進。
ホームページ:https://www.itc-cera.co.jp/index.html
エアロナイト(メタネーション触媒)
「エアロナイト」の断面図(イメージ)。バイモーダル構造と、触媒の土台であるセラミックから触媒までを最適な条件でカスタムメイド製造できるところが強み
同社が描くカーボンニュートラルの産業イメージ。