太陽光発電所の盗難被害が増加する背景とは?
防犯対策や行政・業界の取り組みを解説

太陽光発電所の盗難被害が増加する背景とは?防犯対策や行政・業界の取り組みを解説

近年、太陽光発電所を狙った銅線ケーブルの盗難被害が増加しています。銅線ケーブルの盗難は、事業者個々の運営に大きな打撃を与えるだけでなく、再生可能エネルギーの普及にも悪影響です。

業界団体や行政も、盗難対策に向けた様々な取り組みを実施していますが、基本的には事業者自らが対策を講じる必要があります。そのため、太陽光発電事業に携わる方は、盗難が増加する背景や対処法を把握しましょう。

本記事では、太陽光発電の盗難被害の現状や、盗難への対策、業界・行政の取り組みなどを解説します。


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • 太陽光発電所で銅線ケーブルの盗難被害が増加
  • 盗難被害に遭いやすい太陽光発電所の特徴
  • 太陽光発電所の盗難に関連するリスク
  • 太陽光発電所での盗難を防ぐ5つの対策
  • 太陽光発電所を狙った盗難に対する業界・行政の対応
  • 太陽光発電に関する技術・情報を知りたいなら「PV EXPO 太陽光発電展」へ
  • 太陽光発電事業に携わるなら盗難対策も考えることが大切

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太陽光発電所で銅線ケーブルの盗難被害が増加

2021年以降、太陽光発電所で銅線ケーブルの盗難が増加しています。

一般社団法人 日本損害保険協会によると、盗難による保険金の支払い状況は2017年から2022年にかけて約20倍に増加しており※、特に茨城県や栃木県などの関東地方北部を中心とした地域で盗難被害が多い傾向があります。

また、近年(2024年時点)では、関東地方北部以外の地域でも盗難被害が増加している状況です。例えば、2023年の6月から7月までの1ヶ月間では、山形県内の太陽光発電所6ヶ所で時価総額1,300万円相当の銅線ケーブルが盗まれました。

今後も太陽光発電所では、銅線ケーブルの盗難が増加する可能性があるため、関連事業者には自社での対応が求められます。

※出典:一般社団法人 日本損害保険協会「太陽光発電設備向け火災保険(企業向け)の事故発生状況等に関する調査研究結果」

盗難被害が増加している背景には銅価格の高騰がある

太陽光発電所での盗難被害が増加している背景には、銅価格の高騰による転売が挙げられます。銅価格は、2020年までは価格の上下があったものの、年単位で見ると大きな変動はありませんでした。

しかし、2021年以降は価格が右肩上がりで上昇しており、2024年11月時点では、2020年の価格と比較して約2倍になっています。

※1出典:一般社団法人日本電線工業会「国内銅建値(月平均)推移表」

太陽光発電のケーブルには銅が使用されている場合が多く、大量の銅をまとめて確保できることから、犯罪グループによる盗難が急増している状況です。

警視庁によると、2020年から金属の盗難件数は年々増加しています。なかでも銅の盗難件数は全体の51.8%にのぼり、太陽光発電所を含めた金属ケーブルの被害は、銅の盗難件数の54.8%です※2。

※2出典:警察庁「第1回 金属盗対策に関する検討会 資料」

盗難被害に遭いやすい太陽光発電所の特徴

盗難のターゲットになりやすい太陽光発電所の特徴は、以下のとおりです。

  • 高圧設備・特別高圧設備
  • メンテナンスが不十分

それぞれ解説します。
 

高圧設備・特別高圧設備

盗難のターゲットになりやすいのは、発電量が50kWから2,000kW未満の高圧設備です。主に狙われるのは、銅線が太くて重い直流集電からPCS(パワーコンディショナー)部分です。

また、警備が厳重な2,000kW以上の特別高圧設備でも被害は発生しており、1件あたりの被害額が1億円以上におよぶケースもあります。特別高圧設備は設置面積が広く管理が難しいことから、同一発電所で何度も盗難被害に遭うケースも存在します。

人の出入りが少なくメンテナンスが不十分

窃盗犯は特に人目を気にする傾向があるため、人の出入りが少ない発電所や人目が少ない発電所が狙われる傾向があります。加えて、草が生い茂っているなどメンテナンスが行き届いていない場合、より盗難リスクは高まります。

設備の規模に関係なく、盗難のターゲットになりやすい発電所の特徴は、以下のとおりです。

  • 人目につきにくい立地にある
  • 内部が外から見えにくい
  • 保守・管理が行われていない
  • 防犯・警備システムが整っていない
  • 配管が地上に出ている
  • 逃走しやすい

窃盗犯は、状況確認のために下見を行う傾向があるため、不審者を見かけた場合は注意が必要です。

太陽光発電所の盗難に関連するリスク

太陽光発電所の銅線ケーブルが盗まれた場合、いくつかのリスクが生じます。以下では、銅線ケーブルの盗難に関する主なリスクを紹介します。
 

事業の継続が困難になる場合がある

太陽光発電所の銅線ケーブルが盗難されると、ケーブルが失われるだけでなく、PCSや分電盤、遮断器、キュービクルなどの設備にも損傷が生じます。

そのため、盗難被害に遭った場合は、銅線ケーブル部分の修繕コストだけでなく、関連設備の修繕、取り替え、復旧などのコストもかかります。

また、太陽光発電所のこれら設備はすぐに交換できるわけではありません。運用の再開には数ヶ月かかるケースもあるため、その間は発電できずに利益も減少します。

盗難被害に対する保険に加入しているなら損害の一部を補填できる場合がありますが、保険料が大幅に高くなるため、その後の運営に影響します。

場合によっては事業の継続が困難になる可能性もあるため、銅線ケーブルの盗難には細心の注意を払う必要があるでしょう。

社会インフラを脅かす可能性がある

太陽光発電は、国内の昼のピーク電力の3割近くをまかなう日もあり、社会の重要な電源インフラを担っています※。このまま太陽光発電所の銅線ケーブルが盗難され続けると、電源の安定供給が脅かされるかもしれません。

また、日本では2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの主力電源化を掲げています。盗難被害によって事業者が事業を継続できない状況や、投資が進まない状況に陥ると、再生可能エネルギーの普及にも悪影響です。

※出典:一般社団法人 太陽光発電協会「太陽光発電のケーブル盗難削減に向けて」

太陽光発電所での盗難を防ぐ5つの対策

太陽光発電所での盗難を防ぐためには、事業者自らによる対策が不可欠です。発電設備を盗難被害から守るための主な対策は、以下のとおりです。

  • 防犯システムを導入する
  • 定期メンテナンスを行う
  • 警備システムを導入する
  • 銅線ケーブルからアルミケーブルに切り替える
  • 万が一に備えて保険に加入する

それぞれ解説します。

対策➀防犯システムを導入する

太陽光発電所に限らず、盗難対策の基本は、まず窃盗犯を敷地に入らせないことです。敷地内への侵入を抑制するためには、防犯システムの導入が効果的です。主な防犯システムには以下のものがあります。

  • AIセンサー
  • 遠隔監視システム
  • 人感センサー
  • バリカーの設置

例えば、AIセンサーや遠隔監視システムによって監視を強化すれば、窃盗犯への威嚇が可能です。人感センサーを導入すれば、光・音・警告などで犯行を牽制できるでしょう。

また、銅線ケーブルは重たいため、盗難時は発電所の近くに車両を止めることが考えられます。バリカーを設置すれば発電所の近くまで車両が進入することを防止できるため、下見の時点で断念させられる可能性があります。

対策②定期メンテナンスを行う

銅線ケーブルの盗難を防ぐには、草刈りや設備の保守・点検などの定期メンテナンスを行うことが大切です。窃盗犯は心理的に人目を気にする傾向があるため、設備のメンテナンスが行き届いていれば、人の出入りが多いと思わせられる可能性があります。

そもそも発電設備のメンテナンスは、長期間安定した運用を行うために義務化されていますが、銅線ケーブルの盗難防止にもつながるため、定期的にしっかりとメンテナンスを行いましょう。

対策③警備システムを導入する

自社で警備が難しい場合、警備システムを導入する方法もおすすめです。コストはかかりますが、警備システムを導入すれば出入り口や狙われやすい場所にセンサーを設置・監視でき、異常があった場合には警備会社が駆けつけます。

自社でも定期巡回を実施し、不足部分を警備システムで補うことも可能です。

対策④銅線ケーブルからアルミケーブルに切り替える

太陽光発電所の状況にもよりますが、銅線ケーブルをアルミケーブルに切り替えるのも対策のひとつです。

警視庁によれば、金属の盗難被害に占める銅の割合は51.8%に対して、アルミの割合は3.2%と大幅に低下します※。銅線ケーブルをアルミケーブルに切り替えれば、犯罪に対する高い抑制効果が期待できるでしょう。

近年では、銅線盗難対策としてアルミケーブルの活用を促進するサービスも登場しているため、気になる場合は一度事業者に相談することをおすすめします。

なお、設備の状況によってはアルミケーブルへの切り替えができないケースがあるため、詳細はサービスを提供する事業者にご確認ください。

※出典:警察庁「第1回 金属盗対策に関する検討会 資料」

対策⑤万が一に備えて保険に加入する

太陽光発電事業に限らず、事業ではリスクへの備えが重要です。太陽光発電事業を行う際は、万が一に備えて保険への加入を検討しましょう。

保険の種類によっては物損だけでなく利益補償にも対応しているため、このような保険であれば復旧に要する期間の利益損失分の補償を受けることができます。

なお、近年は太陽光発電所の盗難被害が増加しており、保険会社が支払う保険金の額も増加している状況です。そのため、保険引受け条件を大幅に見直す保険会社も増えており、原則、盗難は不担保とするケースも多いです。

保険会社は多数あるため、選ぶ際には補償内容や条件を確認した上で検討しましょう。

太陽光発電所を狙った盗難に対する業界・行政の対応

太陽光発電所を狙った盗難被害の増加を受けて、これまで業界でも盗難対策への取り組みが行われてきました。

例えば、「一般社団法人 太陽光発電協会(JPEA)」と「一般社団法人 再生可能エネルギー長期安定電源推進協会(REASP)」では、以下のような取り組みを行っています。

また、各都道府県では金属類の窃盗などの犯罪を防止するために、金属取り扱い業を規制する条例が施行されており、2024年10月時点では千葉県や茨城県など、17の自治体が金属の買取りに関連する条例を設けています。

太陽光発電に関する技術・情報を知りたいなら「PV EXPO 太陽光発電展」へ

太陽光発電所での盗難を防ぐためには、メンテナンス関連を含めた業界の情報を知ることが大切です。太陽光発電の最新情報を知りたい方は、「PV EXPO 太陽光発電展」へご来場ください。

PV EXPO 太陽光発電展は、各種太陽光発電システムをはじめ、太陽光発電関連の多彩な製品、サービスが集まる展示会であり、保守・運用の関連製品も出展対象です。

例えば、以下の製品・技術を取扱うメーカー・商社が出展します。

  • [次世代]太陽電池
  • 太陽光発電システム
  • パワコン・システム機器
  • 架台・施工技術
  • 保守・メンテナンス
  • パネル回収・リサイクル技術など

本展示会には、開発者や研究者だけでなく、世界各国から専門家が来場するため、来場者は太陽光発電に関する最新の研究や情報を知ることが可能です。

また、本展示会では出展も受け付けています。出展社にとっては顧客獲得の良い機会となるため、太陽光発電に関する製品・技術をお持ちの企業は、本展への出展をぜひご検討ください。

■PV EXPO 太陽光発電展
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太陽光発電事業に携わるなら盗難対策も考えることが大切

太陽光発電所を狙った銅線ケーブルの盗難が増加しており、業界や行政も対策を講じています。

また、このまま盗難被害が増加する場合、社会インフラが脅かされるだけでなく、再生可能エネルギーの普及にも悪影響となるため、太陽光発電事業を営む事業者にも早急な対処が求められています。

銅線ケーブルの盗難は、定期的なメンテナンスや設備の切り替えなどで防止につながる可能性があるため、自社でできることから取り組むことが大切です。

太陽光発電関連の最新情報を知るなら、大規模な展示会への参加を検討してはいかがでしょうか。PV EXPO 太陽光発電展は、太陽光発電関連の多彩な製品、サービスが集まる展示会のため、業界の情報収集にご活用ください。

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※「PV EXPO 太陽光発電展」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。

【出展社・来場者募集中!】
太陽光発電に不可欠な技術が集まる「PV EXPO 太陽光発電展」

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


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