合成燃料(e-fuel)とは?作り方からメリット・デメリットや実用化の例まで紹介

合成燃料(e-fuel)は、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を原料とする燃料です。化石燃料の代替燃料として利用できるため、カーボンニュートラル実現に貢献するエネルギーとして期待されています。

本記事では、合成燃料の概要や作り方、メリットやデメリットを解説します。合成燃料の活用方法、実用化に取り組む日本企業も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • 合成燃料(e-fuel)とは?
  • 合成燃料のメリット
  • 合成燃料のデメリット・課題
  • 合成燃料の活用方法
  • 合成燃料の実用化に取り組む日本企業
  • 合成燃料に関する情報収集なら「CCUS WORLD」へ
  • 合成燃料は実用化へ向けた研究・実証が進んでいる

【出展社・来場者募集中!】
合成燃料の実用化に不可欠な技術が集まる「CCUS EXPO -CO2の分離回収・利用・貯蔵 技術展-」

合成燃料(e-fuel)とは?

合成燃料(e-fuel)とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される人工的な燃料です。複数の炭化水素化合物からなる集合体で、石油と同様にガソリンや灯油などの代替燃料として利用できることから、「人工的な原油」と呼ばれています。

合成燃料(e-fuel)は、工場や発電所から排出されるCO2と、再生可能エネルギー由来のH2を使って製造できます。化石燃料と比較すると大気中のCO2を増やすことなく燃料として利用できるため、カーボンニュートラル実現に向けて注目されている燃料です。

カーボンニュートラルについてより詳しく知りたい方は、以下の記事もあわせてご覧ください。

▶関連記事:カーボンニュートラルに向けた取り組みとは?国際的な背景と企業の導入事例を紹介
 

合成燃料の製造方法

合成燃料を製造する主な流れは次のとおりです。

  1. 原料となるCO2を分離回収・クリーンなH2を製造
  2. CO2とH2の合成ガスを製造
  3. FT合成(フィッシャー・トロプシュ反応)
  4. 加工(アップグレーディング)を行って製品化

合成燃料を製造する際は、まず原料となるCO2とH2を製造します。CO2は産業排ガスやDAC(直接空気回収技術)などで分離回収され、H2は再生可能エネルギーを用いて水を分解して製造する方法が一般的です。

その後、CO2とH2を反応させ、合成ガスを製造します。FT合成(フィッシャー・トロプシュ反応)により、この合成ガスから合成粗油を作り、アップグレーディングによってガソリンやジェット燃料、軽油などに加工する流れが合成燃料を製造する大まかな仕組みです。
 

合成燃料のメリット

合成燃料には、CO2の実質的な排出がゼロとなる側面以外にも、いくつかのメリットがあります。代表的なメリットは次のとおりです。

  • 従来の設備を活用できる
  • 化石燃料と同じくらいの高いエネルギー密度を持つ
  • 燃料の備蓄や輸送がしやすい
  • 海外からの化石燃料に依存しない

各メリットの詳しい内容を紹介します。
 

従来の設備を活用できる

合成燃料はガソリンと成分が近いため、従来の内燃機関や燃料インフラをそのまま活用できる点がメリットです。現行のガソリン車や航空機、タンクローリーや輸送船、ガソリンスタンドなどを活用できます。

新たな燃料を実用化する場合、通常はその燃料に適した機関やインフラの整備が必要です。例えば、電気自動車の場合はモーターの開発や充電スポットの設置が求められます。

合成燃料の場合は、現行の機関やインフラを活用できるため、新たに設備を整えるコストの軽減が可能です。普及のハードルが低く、短いスパンでのCO2削減に役立ちます。
 

化石燃料と同じくらいの高いエネルギー密度を持つ

液体の合成燃料は、化石燃料で製造される液体燃料と同じくらいの高いエネルギー密度を有します。

近年、実用化が進んでいる水素エネルギーや電気エネルギーは、脱炭素化に有効なエネルギー源です。ただし、ガソリンやその他の液体燃料と比較すると、エネルギー密度に差があります。

液体の合成燃料はエネルギー密度が高く、航空機や船舶などの大型の輸送機関でも燃料として用いやすいです。合成燃料は水素エネルギーや電気エネルギーへの代替が難しい分野でも、エネルギー密度を保ちつつCO2を削減したい場合に役立ちます。
 

燃料の備蓄や輸送がしやすい

合成燃料は常温で液体であるため、長期備蓄をしやすく、可搬性に優れています。前述のように既存のインフラ(タンクローリーやサービスステーションなど)を活用でき、燃料の備蓄や輸送がしやすいです。

台風や地震などで大規模停電が生じた場合、被害があった地域への燃料の供給は大きな課題です。合成燃料は緊急時に必要な燃料を速やかに供給でき、化石燃料が担っていたエネルギーのレジリエンスを担う利点があります。
 

海外からの化石燃料に依存しない

合成燃料は、石油や天然ガスなどのように海外からの化石燃料に依存しません。CO2とH2で製造できるため、日本のような化石燃料を多く国外に依存する国でも製造可能な点もメリットです。

燃料を国外に依存する場合、燃料の枯渇リスクや価格高騰リスクが存在します。合成燃料により燃料を内製化できれば、このような燃料に関するリスクに備えられます。
 

合成燃料のデメリット・課題

合成燃料は、カーボンニュートラルの実現、特に水素エネルギーや電気エネルギーなどへのトランジション期に有望視されているエネルギーです。

一方で、合成燃料はいくつかのデメリット・課題を抱えています。主なデメリット・課題は次のとおりです。

  • 製造コストが高い
  • 実用化に向けた技術開発が必要

各項目の詳細を解説します。
 

製造コストが高い

合成燃料のデメリットは、現時点での製造コストの高さです。合成燃料の製造にかかるコストは、製造方法によって異なります。

※出典:資源エネルギー庁「合成燃料(e-fuel)の導入促進に向けた官民協議会 中間とりまとめ(案)」

国内で原料調達から製造まで行った場合の製造コストは約700円/Lと想定されており、化石燃料と比較すると高い製造コストです。実用化のためには、今後のさらなる低価格化に向けた民間企業や研究機関のコスト削減の取り組みが求められます。

実用化に向けた技術開発が必要

合成燃料には、製造効率をはじめとする技術的な課題が残されています。

日本では、グリーンイノベーション基金事業やNEDOの交付金事業により、FT合成プロセスの大規模化や効率化、合成燃料の低コスト化に向けた直接合成や共電解を組み合わせたFT合成の開発が進められています。

【出展社・来場者募集中!】
合成燃料の実用化に不可欠な技術が集まる「CCUS EXPO -CO2の分離回収・利用・貯蔵 技術展-」

合成燃料の活用方法

合成燃料は、様々な用途での活用が期待されるエネルギーです。以下では、自動車や航空機の燃料をはじめとした、合成燃料の活用方法を紹介します。
 

自動車の燃料

自動車は、合成燃料の代表的な活用方法です。合成燃料由来のガソリンを代替燃料としてエンジン車に使用すれば、脱炭素化に貢献できます。

2024年5月には、トヨタ自動車株式会社※や出光興産株式会社、ENEOS株式会社、三菱重工業株式会社の4社が協力して、自動車向けのカーボンニュートラル燃料の導入に向けた検討を開始しました。

日本の自動車市場におけるカーボンニュートラル燃料導入のロードマップや製造の実現可能性を検討する方針です。

※出典:トヨタ自動車株式会社「出光興産、ENEOS、トヨタ自動車、三菱重工業、自動車向けカーボンニュートラル燃料の導入と普及に向けた検討を開始」

航空機の燃料

航空機分野は、バイオジェット燃料とともに合成燃料の活用が期待される分野です。比較的車体が小さい自動車と異なり、航空機は機体が大きく、今後もエネルギー効率の高いジェット燃料とガスタービンエンジンの利用が続くと想定されています。

特に、CO2とH2から生産できる合成燃料は、SAF(Sustainable Aviation Fuel:持続可能な航空燃料)として注目されています。

船舶の燃料

船舶業界では、国際海運・内航海運ともにカーボンニュートラルの実現が進められています。

合成燃料は、既存の内燃機関をそのまま使用できて設備投資の負担も少ないため、中小零細事業者の多い内航海運業でカーボンニュートラルを実現する場合の有効な選択肢です。

産業機械の燃料

既存の内燃機関を活用できる合成燃料は、様々な分野の産業機械への活用が期待されています。例えば、石油精製業は今後石油需要の減少が見込まれますが、既存の設備を活用しながら新規事業へ取り組むことが可能です。
 

合成燃料の実用化に取り組む日本企業

合成燃料の実用化は、国内の複数の企業で取り組まれています。以下では、3つの企業を例に合成燃料への取り組みを紹介します。
 

トヨタ自動車株式会社

トヨタ自動車株式会社では、合成燃料の原料調達から社会実装まで、垣根を超えた取り組みを進めています。前述の出光興産株式会社やENEOS株式会社などと取り組むカーボンニュートラル燃料の導入はその一例です。

また、株式会社SUBARUやマツダ株式会社と同時※に、合成燃料にも対応する新たなエンジン開発を進めていくことを表明しています。

※出典:トヨタ自動車株式会社「SUBARU、トヨタ、マツダ、カーボンニュートラル実現に向け、電動化時代の新たなエンジン開発を「三社三様」で宣言」

ENEOS株式会社

石油製品の精製や販売を営むENEOS株式会社※では、カーボンニュートラル実現に向けた合成燃料の実用化に取り組んでいます。具体的には、FT合成で効率的に製品を作るための触媒開発、実用化に向けたプラント設計や建設の実証事業などです。

合成燃料の商用化に向けて、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構のグリーンイノベーション基金事業に参画するなど、国と連携しながら合成燃料の実装に向けて取り組んでいます。

※出典:ENEOS株式会社「RESEARCH & DEVELOPMENT カーボンニュートラル」

出光興産株式会社

出光興産株式会社※は、合成燃料の需要を見越し、海外調達への布石を打つ企業のひとつです。

2023年4月には、合成燃料の製造を行うHIF Globalと、戦略的パートナーシップのMOUを締結しました。HIF Globalと協力し、海外からの合成燃料の調達、国内外の製造設備への共同出資などを検討する予定です。

※出典:出光興産株式会社「HIF Global社との合成燃料(e-fuel)分野における戦略的パートナーシップに関するMOU締結について」

合成燃料に関する情報収集なら「CCUS WORLD」へ

合成燃料の開発に取り組む企業は複数あり、合成燃料を取り巻く環境は日々変化します。そのため、合成燃料の関連事業に従事するなら、最新の情報を得ることが大切です。

合成燃料の関連情報を得たいなら、ぜひ「CCUS WORLD」へご来場ください。

CCUS WORLDは、RX Japanが主催する世界最大級のエネルギー総合展「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」内に新設された特別展示エリアです。

CCUS WORLDでは、合成燃料の原料となるCO2の分離・回収設備、化学吸収や物理吸収などの分離回収ソリューション、輸送船や輸送用車両、合成燃料の利用技術など、CCS・CCUSに関する様々な技術や製品が出展されます。

事前に来場登録をすれば無料で参加可能で、合成燃料の開発や研究に従事する方にとって、最新の技術や知見に触れられる展示会です。

また、CCUS WORLDには、電力会社やガス会社、自動車メーカーや商社、脱炭素に取り組む企業などの研究者・開発者が多数来場します。関連する技術をお持ちであれば、出展のご検討もおすすめです。

CCUS WORLDの詳細は、以下のリンクをご確認ください。

■CCUS WORLD
詳細はこちら

合成燃料は実用化へ向けた研究・実証が進んでいる

合成燃料は、CO2やH2を合成して製造する環境負荷の小さい燃料です。既存の設備を活用できる、高いエネルギー密度を誇るなど複数のメリットがあります。

一方、現時点では製造コストの高さや技術に課題が残ります。今後の実用化へ向けて研究・実証が進んでおり、技術開発の加速や国内プロジェクトの組成などが求められる分野です。

CCUS WORLDでは、合成燃料に関する最新技術や製品が展示されます。来場する方・出展する方の双方にメリットの多い展示会ですので、ぜひCCUS WORLDの活用をご検討ください。

さらに詳しい情報を知りたい方へ
資料請求はこちら

※「CCUS WORLD」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の特別展示エリアです。

【出展社・来場者募集中!】
合成燃料の実用化に不可欠な技術が集まる「CCUS EXPO -CO2の分離回収・利用・貯蔵 技術展-」

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


■関連する記事