核融合発電とは?実用化のメリット・デメリットや国内外の動向を解説
核融合発電は、エネルギー確保の新たな選択肢として実用化が期待される技術です。日本を含む各国・地域で研究開発が進み、2025年には国際核融合実験炉「ITER」の運転開始が予定されているなど、実用化が現実味を帯びています。
本記事では、核融合発電の概要、実用化するメリットやデメリットを解説します。実用化に向けた現状や核融合発電で採用される方式も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他
目次
- 核融合発電とは
- 核融合発電を実用化するメリット
- 核融合発電を実用化するデメリット・課題
- 核融合発電の実用化の現状
- 核融合発電の方式
- 核融合発電の実用化へ向けた国内外の動向
- 新エネルギーの情報収集に「SMART ENERGY WEEK」の活用を
- 核融合発電の実用化は安定したエネルギー確保に役立つ
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核融合発電とは
核融合発電とは、名称のとおり「核融合」を活用して発電する仕組みです。
現在実用化されている原子力発電は、「核分裂」のエネルギーを発電に利用しています。核分裂は、ウランなどの大きな原子核を分裂させることで多くのエネルギーを抽出する技術ですが、「核融合」はその逆で、原子核を融合させることでエネルギーを得る新しい技術です。
核分裂による原子力発電は、発電の過程で放射性廃棄物が排出される点が課題です。放射性廃棄物を地上で管理することは難しく、地下深くに貯蔵しなければなりません。その他、原料のウランが有限である点、制御を失うと分裂反応が継続してしまう点もデメリットです。
一方、核融合は放射性廃棄物の排出が少なく、原料を海水から得られるため、安全かつ持続可能なエネルギーとして期待されています。
核融合発電を実用化するメリット
核融合発電を実用化すると、次のメリットが得られます。
- CO2(二酸化炭素)や放射性廃棄物を削減できる
- 燃料を調達しやすい
- 安全性が高い
- エネルギー効率が高い
それぞれのメリットを詳しく紹介します。
CO2(二酸化炭素)や放射性廃棄物を削減できる
核融合発電は、発電過程で排出物がほとんど出ない点がメリットです。
核融合発電では通常、重水素(D)と三重水素(T)を核融合させてエネルギーを生み出します。融合の際に少量の放射能が発生しますが、すぐに減衰するため、原子力発電で発生する放射性廃棄物がほとんど排出されず、放射性廃棄物の処理コストを削減できます。
また、核融合の過程ではCO2(二酸化炭素)を排出しません。そのため、火力発電の課題に対する解決策となり、地球環境に与える影響が低い発電方法です。
燃料を調達しやすい
核融合発電は、発電に必要な燃料を調達しやすい発電方法です。核融合発電は主に重水素や三重水素を燃料としますが、これらの水素は海水から調達できます。
三重水素の原料であるリチウムの海水中資源量は2330億トンとされており、1立方メートルあたりの海水には、重水素が33グラム、リチウムが0.2グラム含まれています。燃料はほぼ無尽蔵にあり、資源を確保しやすい点は大きなメリットです。
安全性が高い
核融合発電は原子力発電と比較して、安全性が高いとされています。核融合発電では比較的少量の中性子が発生しますが、原子力発電で見られる高レベルの放射性廃棄物は発生しません。
また、核融合はシステムの電源を切れば反応が停止する側面があり、核反応の暴走が起こりにくい点もメリットです。
エネルギー効率が高い
核融合発電では、1グラムの燃料で石油8トン分※のエネルギーが得られるとされています。石油8トンは、タンクローリー1台分に匹敵する量です。ウラン1グラムで石油1.8トン分※とされる原子力発電と比較すると、エネルギー効率が高い点が特徴です。
核融合発電を実用化するデメリット・課題
核融合発電は安全性が高く、資源の枯渇問題にも対応可能な発電方法です。一方、技術面やコスト面の課題を抱えています。
以下で詳しく紹介します。
実用化へ向けて技術的な課題がある
核融合によるエネルギー生産は、1920年代から進められてきた歴史のあるトピックです。しかし、約100年が経過した現在も実用化はされていません。
核融合発電の実用化が実現しなかった理由のひとつは、プラズマ制御にハードルがあったためです。原子を核融合させるためには、燃料をプラズマ状態にして融合させますが、プラズマは超高速で移動するため、どう制御するかが長年の課題でした。
近年ではいくつかのプラズマ制御の実証実験が行われ、臨界プラズマ条件は達成されています。ただし、核融合を起こす超伝導コイル、プラズマの排熱機構、ブランケットなど、技術開発が必要な項目はいまだ多い状態です。
建設・開発に大きなコストがかかる
核融合発電は、必要な設備や技術の開発に大きなコストがかかる点もデメリットです。
日本・アメリカ・中国・韓国・ロシア・インド・EUが参加するITER(イーター)計画では、核融合実験炉の建設に約2.5兆円が投資されています。あくまで実験炉段階の建設コストですが、膨大な金額です。
ITER計画とは、エネルギー問題と環境問題を根本的に解決するものと期待される核融合エネルギーの実現に向けて、核融合実験炉 ITERの建設・運転を通じ、核融合エネルギーの科学的・技術的実現性の確立を目指す国際プロジェクトのことです。
内閣府原子力委員会核融合会議の開発戦略検討分科会※によると、実用化後の核融合炉の建設コストは約4,900億円が見込まれています。核融合発電の実用化には、今後さらなるコスト低下が課題です。
※出典:内閣府原子力委員会核融合会議 開発戦略検討分科会「核融合エネルギーの技術的実現性 計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」
核融合発電の実用化の現状
核融合発電の実用化は現状どの段階にあるのでしょうか。2022年に文部科学省が核融合戦略有識者会議に提出した資料によると、現在、核融合発電の実用化は科学的・技術的な実現性に取り組んでいる段階です。
核融合発電の実用化までには、連続核融合反応や長時間燃焼の実現、原型炉の建設に必要な核融合炉工学の構築など、達成すべき課題が多い状況です。
日本の核融合発電は、2050年頃の実用化を目指して研究開発が進んでいます。
核融合発電の方式
核融合発電の方式は、大きく以下のふたつに分けられます。
- 磁場閉じ込め方式
- 慣性閉じ込め(レーザー)方式
以下では、近年注目されている磁場閉じ込め方式の1種である「磁場反転配位(FRC)型」とともに、各方式の特徴を解説します。
磁場閉じ込め方式
磁場閉じ込め方式は、核融合で発生するプラズマを強力な磁場で閉じ込める方式です。
以下のふたつが、磁場閉じ込め方式の代表例に挙げられます。
トカマク型はプラズマを閉じ込める性能が高く、核融合装置の構造がシンプルな点が特徴です。ITER計画の核融合実験炉や、国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)の臨界プラズマ装置「JT-60」は、このトカマク型の方式を採用しています。
磁場反転配位(FRC)型
磁場反転配位(FRC)型は、磁場閉じ込め方式の1種で、燃料に水素とホウ素を用います。
磁場反転配位(FRC)型は、核融合で中性子が発生しない点がメリットです。核融合炉の構造を簡素化でき、エネルギー効率が高い技術を適用できる点から、近年注目されている方式です。
慣性閉じ込め(レーザー)方式
慣性閉じ込め方式は「レーザー方式」とも呼ばれ、燃料粒子にレーザー光を当てて加熱する方式です。慣性の力で粒子を留めるため、閉じ込め磁場を必要としません。
2022年12月、慣性閉じ込め方式により、アメリカのLLNLが照射レーザー光の約1.5倍のエネルギー抽出に成功しました。工学的な課題は残されていますが、実用化の実現が2030年代後半から2040年代にかけて早まる可能性が期待されています。
核融合発電の実用化へ向けた国内外の動向
核融合発電の実用化に向けた研究開発は、国や地域を超え、世界の様々な団体で進められています。以下では、核融合発電の動向を国内と国外に分けて解説します。
国内の動向
日本は7つの国と地域が共同で進めているITER計画に参加しており、ITER計画は2025年の運転開始に向けて開発が本格化しています。日欧協力のもと、ITER計画を補完する形でBA(Broader Approach)活動も進められています。
国内の研究開発は、国際的なプロジェクトだけではありません。東京大学※では球状トーラス型核融合実験装置を利用した研究、京都フュージョニアリング株式会社※では、発電プラント技術に関する研究が進められています。
海外の動向
ITER計画の進展により、核融合発電の実用化は国際協調から国際競争へ変化しています。
各国で核融合発電のマイルストーンが発表され、アメリカやイギリスは2040年代、中国は2030年代、EUや韓国は2050年代の実用化を目指している状況です。同時に、核融合ベンチャーへの支援を実施するなど民間との連携を拡大しています。
新エネルギーの情報収集に「SMART ENERGY WEEK」の活用を
核融合発電をはじめとした新エネルギーは、エネルギーの枯渇や気候変動への対応などの問題解決に深く関わる課題です。各国の政府の支援も拡大傾向にあります。
新エネルギーに関する情報収集をしたい方は、ぜひ「SMART ENERGY WEEK」をご活用ください。
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また、以下の特別企画が開催されます
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核融合炉、構成部品・機器・材料、メンテナンスなどが多数出展
SMART ENERGY WEEKは、国内のエネルギー関連企業の開発者、公立大学や公的機関の研究者、海外の専門家が来場する展示会です。
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エネルギービジネスの重要なプラットフォームとして定着しているため、関連する技術をお持ちの企業の方は当展示会への出展もぜひご検討ください。各展示会の詳細は、以下のリンクでご確認いただけます。
■【特別企画】FUSION POWER WORLD-核融合発電ワールド-
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■SMART ENERGY WEEK
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■H2 & FC EXPO 水素燃料電池展
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■PV EXPO 太陽光発電展
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■BATTERY JAPAN 二次電池展
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■SMART GRID EXPOスマートグリッド展
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■WIND EXPO 風力発電展
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■BIOMASS EXPO バイオマス展
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■ZERO-E THERMAL EXPOゼロエミッション火力発電EXPO
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核融合発電の実用化は安定したエネルギー確保に役立つ
核融合発電が実用化されると、化石燃料に頼ることなく、持続可能なエネルギーを得られます。核融合発電は燃料を調達しやすく、原子力発電と比較して安全性が高い点もメリットです。
しかし、核融合発電には現状様々な技術的・コスト的な課題があり、実用化の途上にある段階です。日本は2050年頃の実用化に向けて研究開発を進めています。
核融合発電は、国際協調のフェーズから国際競争のフェーズへと移行しつつあります。政府支援も実施されていることから、今後の動向が注目される新エネルギーです。
さらに詳しい情報を知りたい方へ
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※「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」「PV EXPO 太陽光発電展」「BATTERY JAPAN 二次電池展」「SMART GRID EXPOスマートグリッド展」「WIND EXPO 風力発電展」「BIOMASS EXPO バイオマス展」「ZERO-E THERMAL EXPOゼロエミッション火力発電EXPO」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の構成展です。
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核融合発電に必要な情報が集まる【FUSION POWER WORLD -核融合発電ワールド-】
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」他資源循環、サーマルリサイクル技術に関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他