グリーンスチールとは?
普及への課題や日本・世界の取り組みをわかりやすく解説

グリーンスチールとは?普及への課題や日本・世界の取り組みをわかりやすく解説

グリーンスチールは、従来の鉄鋼製法よりCO2(二酸化炭素)を大幅に削減した鉄鋼材料です。2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、CO2排出量が多い鉄鋼業界の脱炭素化が不可欠であり、各メーカーがグリーンスチールの提供を発表しています。

今後はグリーンスチールの普及が見込まれるため、鉄鋼業に関連する方はグリーンスチールに関する情報を知っておくことが大切です。

本記事では、近年注目されるグリーンスチールの概要や普及への課題、日本・世界での取り組みを解説します。
 


▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


目次

  • グリーンスチールとは
  • 従来の鉄鋼からグリーンスチールへの移行が求められる背景
  • グリーンスチールのメリット
  • グリーンスチールの普及に向けた課題
  • グリーンスチールの普及に向けた国際的な取り組み
  • グリーンスチールの普及に向けた日本の取り組み
  • グリーンスチールの供給を発表している日本の企業・鉄鋼メーカー
  • 新エネルギーの技術・情報を知るなら「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」「CCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展」へ
  • グリーンスチールを含めた脱炭素化の情報を入手して環境経営を

【出展社・来場者募集中!】
グリーンスチール関連情報が集まる「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」
【出展社・来場者募集中!】
グリーンスチール関連情報が集まる「CCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展」

グリーンスチールとは

グリーンスチールとは、鉄鋼の製造過程で生じるCO2(二酸化炭素)の排出量を従来の鉄鋼より大幅に削減した鉄鋼材料です。ゼロエミッションスチール、ゼロカーボンスチール、脱炭素鉄鋼などとも呼ばれます。

従来の製鉄法は、鉄鉱石と石炭(鉄鉱石から酸素を除去するためのコークスとして使用)を原料としており、高温の炉で鉄鉱石を溶かし、鉄鉱石に含まれる酸素を除去することで銑鉄(せんてつ)を製造します。

製造された銑鉄はまだ炭素を多く含んでおり、もろい状態です。そのため、この銑鉄に酸素などを吹き込みながら不純物を減らし鋼にします。

従来、鉄鉱石から酸素を除去する方法には、主にエネルギー効率が高い「高炉法」が用いられますが、高炉法では石炭(コークス)を還元剤に使用するため、多量のCO2が排出されます。

一方、グリーンスチールでは、高炉で使用する石炭(コークス)の代わりに水素や電気を利用して製鉄する方法が用いられるため、従来の鉄鋼材料に比べて大幅なCO2の削減が可能です。

グリーンスチールの製造方法には、「水素還元製鉄法」「直接還元法」「電炉法」があり、それぞれの特徴は以下のとおりです。



従来の鉄鋼からグリーンスチールへの移行が求められる背景

鉄鋼業をはじめとする素材産業は日本経済・地域経済の基幹産業です。しかし、2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、再生可能エネルギーへ転換するなどのエネルギー部門だけでなく、CO2の排出源となる産業の脱炭素化がとても重要です。

製造業は日本のCO2排出量の約3分の1を占めており、鉄鋼業は製造業全体のCO2排出量の約3分の1を占めています※。そのため、2050年カーボンニュートラルを実現するためには鉄鋼業の脱炭素化が不可欠です。

また、日本だけでなく、世界的にも脱炭素化の実現には鉄鋼業が鍵を握るという意識が高まっています。

このような背景のなかグリーンスチールへの転換が求められており、マーケットも注目を集めています。IEA(国際エネルギー機関)によれば、2030年までには世界で1億トン、世界粗鋼生産の約5%まで成長する可能性があるとされています※。

※出典:経済産業省 資源エネルギー庁「鉄鋼業の脱炭素化に向けた世界の取り組み(前編)~「グリーンスチール」とは何か?」

グリーンスチールのメリット    

前述したとおり、グリーンスチールはCO2排出量を大幅に削減できる点がメリットです。

鉄鋼製品の製造には温室効果ガスが関係しており、鉄鋼は土木や機械、自動車など多方面の業界で必要とされるため、その分CO2排出量も多いです。グリーンスチールでCO2排出量を削減できれば、環境負荷の大幅な低減が期待できます。

また、グリーンスチールは投資家からの評価も集められます。事実、2023年には、投資家の共同エンゲージメントグループが日本製鉄株式会社のグリーンスチールに向けた前進に対して称賛しています。

日本製鉄株式会社は、2023年より一部の地区を候補地として、高炉による鉄鋼生産プロセスから電炉による生産プロセスへの移行に向けた検討を進めてきました。これを受けた投資家の共同エンゲージメントグループは、日本製鉄の声明を歓迎する旨を公表しています。

※1出典:日本製鉄株式会社「高炉プロセスから電炉プロセスへの転換に向けた本格検討を開始」
※2出典:一般社団法人 コーポレート・アクション・ジャパン(CAJ)「投資家は、世界第4位の鉄鋼会社である日本製鉄のグリーンスチールに向けての前進を称賛します」


グリーンスチールの普及に向けた課題

鉄鋼業ではグリーンスチールへの転換が促進されていますが、グリーンスチールの普及には課題もあります。以下では、グリーンスチールの普及に向けた主な課題を紹介します。
 

莫大なコストがかかる

グリーンスチール化には、製鉄技術の開発、設備の転換、製造コスト、原料利用に伴うコストなど、莫大なコストが必要です。

例えば、石炭の代わりに利用される水素の供給コストの場合、日本の水素戦略で設定されたコスト目標は、2030年までに30円/Nm3とされています※1。

しかし、日本鉄鋼連盟によれば、従来の石炭を用いた製造方法から水素へ転換する場合の調達コストは約8円/Nm3の試算になっており※2、大きな乖離があります。

原料となる水素のコストを低くしなければグリーンスチール化の実現は難しいですが、現状、国産水素のコストは高く、輸入するにしても輸送に大きな課題がある状況です。

※1出典:経済産業省 資源エネルギー庁「水素基本戦略の概要」
※2出典:経済産業省 資源エネルギー庁「水素・アンモニアサプライチェーン投資促進・需要拡大策について」


定義が明確になっていない

グリーンスチールの普及に向けた課題には、定義の明確化も挙げられます。グリーンスチールは、製鉄工程でCO2排出量の低い鉄鋼材料をさしますが、「何をもってCO2排出量が低いとするか」「どのような測定方法を用いるか」という明確な基準が存在しません。

CO2排出量を測定する手法は複数あり基準も統一されていないため、世界的な定義を明確にして、需要拡大政策を展開していく必要があります。

また、どこまで測定するかも重要な課題です。製造業では、自社のCO2排出量を把握し、削減に対して自社で責任を負うことが一般的になりつつあります。

近年では排出量削減の責任がサプライチェーン全体に拡大しており、鉄鋼業でも同様に、企業が直接排出するCO2だけでなく、サプライチェーン全体のCO2排出量の考慮が求められます。
 

再生可能エネルギーによる電力の確保が難しい

電炉法では、鉄スクラップを電炉で溶かして新しい鉄に再生します。この電炉で利用する電気を発電する際に生じるCO2が、電炉法でのCO2排出量の大半を占めています。

現在、日本では安定した電力供給や経済性の面で優れた石炭火力発電が主電源ですが、CO2排出量が多い点が課題です。そのため、CO2排出量を抑制するには、火力発電から再生可能エネルギーへの切り替えが不可欠です。

しかし、再生可能エネルギーは安定供給が難しいため、電炉法が主流となった場合に必要な電力を確保できるか現段階では不透明です。

そのため、今後グリーンスチールを普及させるには、グリーンスチールを製造するための技術発展だけでなく、再生可能エネルギーの安定した電力確保も重要となるでしょう。
 

グリーンスチールの普及に向けた国際的な取り組み

グリーンスチールは日本だけでなく世界的にも注目を集めており、普及に向けた国際的な取り組みが行われています。

2022年にはIEAが「ニア・ゼロ・エミッション素材」の定義の案を提案しました。これは、鉄鋼を生産する際の原材料に応じて、基準となるCO2排出量を決めるものです。

鉄鉱石を還元して製造する鉄と、鉄をリサイクルして再利用する鉄の各材料の利用比率によってCO2排出量の閾値(しきいち)を設定することで、国際的な定義を明確にする目的があります。

例えば、鉄鉱石100%から製造する鉄は、1トンあたりCO2排出量が400g以下であればニア・ゼロ・エミッション素材と見なすというものです。

また、G7でもIEAが提案した「ニア・ゼロ・エミッション素材」の定義に合意していく方針が打ち出されており、グリーンスチールの定義が明確になることが期待されています。

なお、日本では2009年以降、製鉄所から排出されるCO2の排出量・原単位の計算方法を開発し、製造プロセスに応じた国際規格が「ISO14404」シリーズとして発行されました。

2023年の「G7気候・エネルギー・環境大臣会合」で提出されたIEAのレポートでは、ISO14404を含む既存の5つの排出量測定手法を調整し、国際的な測定方法を相互に運用可能な形にしていくことが合意されています。
 

グリーンスチールの普及に向けた日本の取り組み

日本でもグリーンスチールの普及に向けた取り組みが実施されています。以下では、グリーンスチールの普及に向けた日本の取り組みを紹介します。
 

新たな製鉄プロセス技術の開発

日本では世界に先駆けて、2008年より水素を活用した製鉄プロセスに着目しており、技術開発プロジェクト「環境調和型プロセス技術の開発/水素還元等プロセス技術の開発(COURSE50プロジェクト)」を推進してきました。

COURSE50とは、高炉法によって排出されるCO2の量を抑えることで低炭素化を図るものです。COURSE50は、以下の2つの技術で構成されます。

COURSE50より進んだ応用的な技術も開発中で、2050年までに高炉でのCO2排出量を50%まで削減できる仕組みの実装を目指しています。さらに、分離・貯留したCO2を利用するCCUSの技術開発も進んでいます。

▶関連記事:CCS・CCUSとは?違いやCO2排出量削減に向けた国内外の取り組みを紹介

マスバランス方式を適用したグリーンスチール化

COURSE50などの新しい技術はまだ開発段階であり実用化・普及に至っていませんが、鉄鋼業界でもCO2排出量を削減する活動が求められており、排出量を低減させた製品のニーズが増えています。

そのため、現在はマスバランス方式を適用したグリーンスチール化の普及が進んでいます。マスバランス方式を適用したグリーンスチールとは、鉄鋼製造企業が実際に排出削減のあるプロジェクトによって温室効果ガス、またはCO2削減量を財源に消滅証書を発行し、任意の製品に分配して証書と一緒に供給する方法です。

プロジェクトの計画や費用の負担は鉄鋼製造企業が行います。マスバランス方式を適用したグリーンスチールによって、排出削減量を経済価値化できるため、鉄鋼製造企業の多くが取り入れはじめています。
 

グリーンスチールの供給を発表している日本の企業・鉄鋼メーカー

日本だけでなく、世界的にも鉄鋼業の脱炭素化は重要である意識が高まっています。こうした背景のなか、日本の鉄鋼メーカーもグリーンスチールの提供を発表しています。

なお、株式会社神戸製鋼所が提供する「Kobenable Steel」は、2024年に国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録され、業界ではじめてグリーンスチールのNETIS登録となっています。

※1出典:日本製鉄株式会社「NSCarbolex® Neutralとは~ 脱炭素社会の実現に必要不可欠な鉄鋼製品 ~」
※2出典:JFEスチール株式会社「グリーン鋼材 “JGreeX®”について」
※3出典:株式会社神戸製鋼所「業界初 当社が提供する低CO2高炉鋼材「Kobenable Steel」の国土交通省/新技術情報提供システム(NETIS)への登録について」


新エネルギーの技術・情報を知るなら「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」「CCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展」へ

2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、持続可能な経済社会の実現が重要であり、グリーンスチールは鉄鋼生産の持続可能性に大きく関連する要素です。グリーンスチールの普及には水素を活用した技術開発が不可欠です。

水素エネルギーの技術・情報を知りたい方は、ぜひ「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」「CCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展」へご来場ください。

H2 & FC EXPO 水素燃料電池展とCCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展は、どちらもface to faceのプラットフォームとなっています。ご来場いただくと、多様な製品・サービスを提供する企業様と対面での商談が可能です。

また、どちらの展示会も出展いただく企業様も募集しております。自社の技術をアピールし、新規顧客を獲得する機会にもなるため、関連する技術や製品を持つ企業様は、ぜひ出展をご検討ください。

H2 & FC EXPO 水素燃料電池展の詳細はこちら

CCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展の詳細はこちら

グリーンスチールを含めた脱炭素化の情報を入手して環境経営を

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、様々な業界が取り組みを行っています。CO2排出量の多い鉄鋼業でもCO2排出量の削減に対する取り組みが求められており、グリーンスチールの普及が期待されています。

グリーンスチールの技術はまだ発展途上のため、普及には課題も多数ありますが、今後の動向に注目しましょう。

脱炭素に向けた取り組みは各企業にも求められるため、最新の情報や技術を知り、環境経営を目指すことが大切です。脱炭素化の最新情報や技術を知るには大規模な展示会への参加がおすすめです。

H2 & FC EXPO 水素燃料電池展とCCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展には、新エネルギーの技術・最新情報が集まるため、ぜひご来場ください。

さらに詳しい情報を知りたい方へ
資料請求はこちら

※「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」「CCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展」は、「スマートエネルギーWeek(SMART ENERGY WEEK)」の構成展です。

【出展社・来場者募集中!】
グリーンスチール関連情報が集まる「H2 & FC EXPO 水素燃料電池展」
【出展社・来場者募集中!】
グリーンスチール関連情報が集まる「CCUS EXPO CO2分離回収・利用・貯蔵 技術展」

▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)

肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授

プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他


■関連する記事