ZEH住宅とは?
ZEBの違いやメリット・デメリット、補助金制度を解説
ZEH住宅とは?ZEBの違いやメリット・デメリット、補助金制度を解説
ZEH住宅は家庭での年間エネルギー収支を実質ゼロとする住宅であり、日本を含め世界各国で普及が進んでいます。近年は住宅以外の建物を対象としたZEBへの取り組みも進められ、住宅・建物のエネルギー消費量の削減が図られている状況です。
本記事では、ZEHとZEBの概要と違い、メリット・デメリットを解説します。導入を支援する公的な補助金制度も紹介するので、ぜひ参考にしてください。
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他
目次
- ZEH住宅とは
- ZEHとZEBの違い
- ZEH・ZEBのメリット
- ZEH・ZEBのデメリット
- ZEH・ZEBの補助金制度
- ZEH・ZEBの情報収集に「PV EXPO 太陽光発電展」の活用を
- ZEH・ZEBは今後の住宅・建物のトレンドになり得る仕組み
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ZEH住宅とは
ZEH(ゼッチ)とは、「Net Zero Energy House(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」の略称です。
ZEH住宅では、窓や壁、屋根などの断熱性能を高めるとともに、高効率な設備システムを導入することで省エネルギーを実現します。その上で、太陽光発電などの創エネルギー技術を活用し、住宅で消費するエネルギーを実質ゼロ(ネットゼロ)以下にします。
カーボンニュートラル実現に向け、住宅でのエネルギー消費量を削減する仕組みとして注目されています。
※出典:一般社団法人 環境共創イニシアチブ「令和6年度ZEH補助金」
ZEH住宅は、アメリカで2008年頃から家庭レベルで実現できる省エネルギー住宅として普及してきました。日本では、2021年10月に公表された第6次エネルギー基本計画で政府の目標が示され、達成に向けたZEH住宅の導入促進が図られています。
ZEHと関連する省エネ住宅の種類と定義
ZEHは、エネルギー消費量の削減割合や対象などによりいくつかの種類に分かれます。ZEHの主な種類と定義は次のとおりです。
Nearly ZEHやZEH Orientedは、ZEHの基準達成が難しい地域に適用される種類です。例えばNearly ZEHは、寒冷地や降雪量が多い地域で、太陽光発電での創エネが十分に活用できない場合に適用されます。
また、ZEH-Mは、集合住宅を対象とした種類です。国は2018年に集合住宅でのZEHの定義を設け、補助金事業を開始するなどの支援策を実施しています。
ZEH住宅を定義づける3つの要素
ZEH住宅では、3つの要素によりエネルギー消費量のネットゼロを実現します。
- 断熱性能
- 省エネルギー
- 創エネルギー
ZEH住宅は、高断熱材を利用した壁や床、日射熱を透過しにくい窓ガラスなどを活用した高い断熱性能が特徴です。
住宅の外皮性能は外皮平均熱貫流率(UA値※1)と冷房期の平均日射熱取得率(ηAC値※2)で規定されますが、ZEH住宅では省エネ基準よりも強化した基準が設定されています。
ZEH住宅では、空調や換気、給湯や照明に高効率の省エネシステムを導入し、エネルギー消費量を削減します。
省エネの基準は、断熱性能とあわせて基準一次エネルギー消費量の20%以上の削減です。省エネを支援するツールとして、HEMS(Home Energy Management System)と呼ばれるエネルギー管理システムの普及も進められています。
その他、創エネルギーもZEH住宅を構成する重要な要素です。太陽光発電などの再生可能エネルギーにより、エネルギーを創出する(創エネルギー)ことが求められます。
創エネルギーは、導入する容量の基準は定められていません。ただし、断熱と省エネ、創エネを合計して基準一次エネルギー消費量から100%以上の削減が必要です。
※1 室内と外気熱の出入りがしやすいかの指標。値が小さいほど熱が出入りしにくく、断熱性能が高い。
※2 太陽日射が室内に入りやすいかの指標。値が小さいほど日射が入りにくく、遮蔽性能が高い。
ZEHとZEBの違い
ZEB(ゼブ)は、「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビルディング)」の略称です。ZEBは、建物内で消費するエネルギーを実質ゼロにする点でZEHと共通しています。
両者の主な違いは対象物です。ZEHは住宅を対象とするのに対し、ZEBは住宅以外の建物(ビルや工場、学校など)を対象としています。ZEBの種類とその定義は次のとおりです。
出典:環境省「ZEBの定義」
ZEH・ZEBのメリット
ZEH・ZEBは、導入した住宅・建物に複数のメリットをもたらします。主なメリットは次のとおりです。
- 光熱費の削減につながる
- 災害時の停電に備えられる
- 快適な温度で過ごしやすい
- 住宅の資産価値が高まる可能性がある
各メリットの詳しい内容を紹介します。
光熱費の削減につながる
ZEH・ZEBの住宅・建物は、高い断熱性や高効率の省エネルギー設備により光熱費の削減につながる点がメリットです。電気料金の高騰の影響を受けにくく、太陽光発電などで余剰電力が発生した場合は、電力会社に売電して収入を得ることができます。
災害時の停電に備えられる
ZEH・ZEBの住宅・建物では、太陽光発電などの自家発電の導入が必要です。台風や地震などの災害で停電が発生した場合にも電力供給が可能となり、防災に関するレジリエンスの向上が見込めます。また、蓄電池を設置するとよりレジリエンスの向上が見込めるでしょう。
快適な温度で過ごしやすい
ZEH・ZEBの住宅・建物は室内を快適な温度帯に保ちやすいため、夏は涼しく、冬は暖かい環境で過ごせます。窓ガラスの結露やカビの発生を抑える効果が期待できる点もメリットです。ヒートショックによる心筋梗塞などの事故も防ぎやすい側面があります。
住宅の資産価値が高まる可能性がある
ZEH・ZEBは住宅・建物としての性能が高く、将来的に高値で売却できる可能性があります。
国は、2025年4月以降に新築される全ての住宅・非住宅に、省エネ基準への適合を義務化します。さらに、2030年までには現在の省エネ基準をZEH基準の水準まで引き上げる予定です。
また、ZEBでは、2030年までに中大規模建築物の省エネ基準をZEB基準に引き上げ、適合を義務化します。今後、ZEH基準・ZEB基準への適合が進めば、基準を満たさない住宅・建物と比較して、資産価値が高まる可能性が考えられます。
ZEH・ZEBのデメリット
ZEH・ZEBはエネルギー消費を削減するメリットがある一方で、いくつかのデメリットを抱えています。主なデメリットは次のとおりです。
- 初期費用が高い
- メンテナンスが必要になる
それぞれのデメリットの詳細を解説します。
初期費用が高い
ZEH・ZEBの住宅・建物は、高い断熱性能を持つ素材、高性能なシステム、太陽光発電などに必要な機器を導入します。そのため、一般的な住宅・建物と比較すると初期費用が高い点がデメリットです。
初期費用の負担を軽減するためには、国や自治体の補助金制度を活用する方法が有効な選択肢です。また、ZEH・ZEBの住宅・建物では光熱費を削減できるため、長期的には初期費用を含めた費用の回収も見込めます。
メンテナンスが必要になる
太陽光発電システムをはじめ、ZEH・ZEBの住宅・建物で導入されるシステムや設備では、定期的な維持管理、メンテナンス・点検が必要です。それぞれのメンテナンスコストがかかる点はZEH・ZEBの住宅・建物の課題です。
また、各設備には耐用年数が存在します。例えば、ソーラーパネルは20~30年程度、パワーコンディショナは10~15年程度とされています※。将来的な交換や廃棄、更新の費用を考慮した対応も必要です。
ZEH・ZEBの補助金制度
ZEH・ZEBで必要な費用を支援するために、国や自治体は補助金制度を設けています。主な補助金制度の内容を解説します。
戸建住宅ZEH化等支援事業
戸建住宅ZEH化等支援事業は、経済産業省と環境省が共同で実施する補助金事業です※。ZEHの定義を満たす戸建住宅などを対象に、1戸あたり55万円の補助を実施しています。
集合住宅の省CO2化促進事業
集合住宅の省CO2化促進事業は、マンションなどの集合住宅のZEH化を支援する補助金事業です※。補助金の対象は、住宅用途で利用される階層により、低層ZEH-M、中層ZEH-M、高層ZEH-Mに分けられています。
建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業
建築物等のZEB化・省CO2化普及加速事業は、環境省が一部を経済産業省や国土交通省と連携して実施する補助金事業です※。業務用施設の取り組みを支援する補助金であり、次の3つの事業内容が設けられています。
- ZEB普及促進に向けた省エネルギー建築物支援事業
- 省CO2化と災害・熱中症対策を同時実現する施設改修等支援事業
- サステナブル倉庫モデル促進事業
各事業は、業務用施設のZEB化や省CO2化に向け、高効率設備導入などを行う事業者を支援します。補助対象は、民間事業者や団体、地方公共団体などです。
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業
業務用建築物の脱炭素改修加速化事業は、既存の業務用施設を対象とした事業です※。環境省と経済産業省、国土交通省が連携して実施しています。
本事業では、既存建築物の高断熱化、高効率空調機器などの導入促進を目的に、設備補助が受けられます。改修後の外皮性能(BPI)が1.0以下となるなどの要件が設けられており、断熱材や高効率照明器具などが主な対象設備です。
各種自治体のZEH・ZEB補助金
ZEH・ZEBへの補助金は、各自治体でも実施されています。例えば、千葉県の「業務用建物脱炭素化設計支援事業補助金」※1や福岡市の「脱炭素建築物誘導支援事業」※2などがあります。
また、2023年度の実績によると、都道府県では東京都や鳥取県、政令指定都市では札幌市や横浜市などで補助金事業が行われました※3。
※1出典:千葉県「業務用建物脱炭素化設計支援事業補助金(ZEB・ZEH-M設計補助金)」
※2出典:福岡市「脱炭素建築物誘導支援事業(ZEB、ZEH-M設計補助)」
※3出典:環境省「自治体における住宅省エネ施策の取組事例」
ZEH・ZEBの情報収集に「PV EXPO 太陽光発電展」の活用を
ZEH・ZEBでは創エネの導入が必須であり、多くは太陽光発電が採用されています。ZEH・ZEBに関する事業に携わる方にとって、太陽光発電への理解や情報収集は重要です。
太陽光発電への理解促進を図る場として、ぜひ「PV EXPO 太陽光発電展」をご活用ください。
PV EXPO 太陽光発電展では、太陽光発電システムやパワーコンディショナ、パネル回収やリサイクル技術など、ZEH・ZEBで用いられるシステムや設備が多数展示されます。ZEH住宅支援事業の出展実績もあり、知見を広めたい方におすすめの展示会です。
また、PV EXPO 太陽光発電展には、発電事業者やメンテナンス会社、ゼネコンや住宅メーカー、工場やビルなどの需要家が多数来場します。関連する技術をお持ちの企業様は、ぜひ出展をご検討ください。
PV EXPO 太陽光発電展の詳細は、以下のリンクより確認できます。
ZEH・ZEBは今後の住宅・建物のトレンドになり得る仕組み
ZEH住宅は高い断熱性能や省エネルギー、創エネルギーの導入を特徴とする住宅です。ZEBもZEHと同様の特徴を持ちますが、住宅を対象とするZEHと異なり、ZEBはオフィスビルや公共施設など、住宅以外の建物が対象です。
ZEH・ZEBの導入には、光熱費削減や災害時の停電対策などのメリットが挙げられます。一方、一般の住宅・建物と比較すると費用がかかる側面があるため、国や自治体の補助金を考慮しつつ、導入を検討しましょう。
PV EXPO 太陽光発電展では、ZEH・ZEBの導入に欠かせない太陽光発電に関する製品・サービスが展示されます。ZEH・ZEBに関する最新の知見に触れたい方は、ぜひご来場ください。
※「PV EXPO 太陽光発電展」は、「SMART ENERGY WEEK -スマートエネルギーWeek-」の構成展です。
【出展社・来場者募集中!】
ZEH・ZEB関連の情報が集まる「PV EXPO 太陽光発電展」
▶監修:近藤 元博(こんどう もとひろ)
肩書:愛知工業大学 総合技術研究所 教授
プロフィール:1987年トヨタ自動車に入社。分散型エネルギーシステム、高効率エネルギーシステムの開発、導入を推進。併せて生産工程から排出する廃棄物や、使用済み車両のリサイクルなど幅広い分野で廃棄物の排出削減、有効利用技術の開発導入を推進。
「リサイクル技術開発本多賞」「化学工学会技術賞」「市村地球環境産業賞」他資源循環、エネルギーシステムに関する表彰受賞。2020年から現職。産学連携、地域連携を通じて資源問題、エネルギー問題に取組中。経済産業省総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会 委員他